患者様へ

緩和医療

手術後に手足が動かなくなったり、目が見えなくなったり、耳が聞こえなくなったりなどの神経系の障害が発生すると、患者さんの生活に大きな影響を及ぼしてしまいます。我々は、手術中の神経の障害を予防するために、手術中に神経モニターを実施しています。全身麻酔中は患者さんは寝ておられるので、運動機能や視機能など患者さんの神経機能が保たれているかは全身麻酔から覚められるまでわかりません。ただ、麻酔から覚めてからでは障害が起こってから時間が経過しているので、再度手術を実施しても神経機能が元に戻らない場合が多いです。そこで、手術で障害される可能性のある神経機能を手術中に神経モニタリングしています。神経モニタリングに少しでも異常が見られれば、その異常の原因を調べ、回復に努めることで、患者さんの神経機能の障害を予防しています。最近は、世界的にも適切な神経モニターを実施し、神経機能を確認しながら手術をするというのが一般的になっています。我々は、精度の高い神経機能モニタリングを実施するため、多職種のチームで神経モニターを実施しています。

脳神経外科で手術が必要な疾患には、様々な症状があり治療によって改善が期待される一方、治療に伴う危険性も考えられます。より確実な治療効果を支援し、出来るだけ安全な治療を可能にするために術中神経モニターは非常に有用でなくてはならない重要なものです。対象となる疾患には、脳腫瘍、脳動脈瘤、脊椎脊髄疾患、頸動脈狭窄症、三叉神経痛、顔面けいれん、先天奇形などが含まれます。モニター出来る神経の機能は、運動機能、感覚機能、視機能、眼球運動、聴覚、顔面神経、嚥下や発声に係る喉の機能から排尿排便機能にまで及びます。脳腫瘍や脳動脈瘤の手術後に手足が動かなくなったり、目が見えなくなったり、耳が聞こえなくなったりするようなことがないように、手術中に神経の機能を常に監視して、危険が迫った場合にはアラームを発することが出来ます。また、顔面けいれんの手術では、手術中に経連の原因になっている圧迫血管が効果的に減圧されたことを、神経モニターによって確認する事も出来ます。これらの神経モニターを駆使することによって、手術中の危険を回避し、最大限の効果が得られるような手術を行う事が可能になります。 患者さんの病状や経過によって手術の種類や危険性も大きく異なります。患者さんご自身が受ける手術に必要な神経モニターの種類や期待される効果について、遠慮なく担当医師にお尋ねください。

脳の機能は、一旦障害されてしまうと、それ以降の回復が非常に難しい臓器です。覚醒下脳手術は、言語機能や運動機能など人間が生活するうえにおいて、もっとも基本的で重要な脳機能を温存しながら脳実質内の腫瘍性病変を摘出する手術手技の一つです。覚醒下脳手術では、術中に患者を覚醒させることによりリアルタイムに言語機能などの重要な脳機能を評価することが最大の利点となります。覚醒下手術による術中脳機能マッピングが特に有用である疾患は、浸潤性の脳腫瘍であり、代表的な適応疾患としてはグリオーマ(神経膠腫)が挙げられます。特に低悪性度のグリオーマは腫瘍の境界が不鮮明であり、腫瘍の摘出範囲の決定する際には覚醒下手術でのマッピングが有用です。グリオーマにおいては、グレード2でも3以上でも腫瘍を最大限に摘出することにより患者さんの生命予後を改善することが示されています。そのため、グリオーマに対する開頭腫瘍摘出術では覚醒下手術を含め、様々な手術を支援する医療機器を駆使して、合併症を防ぎつつ最大限の摘出を目指すべきことになります。 覚醒下脳手術では、手術中に患者さんを全身麻酔から覚まして、しゃべったり、手足を動かしたりすることが必要となります。そのため、覚醒下脳手術を安全に施行するためには、脳腫瘍を専門とする脳神経外科医のみならず、覚醒下手術麻酔に熟練した麻酔科医、臨床検査技師、言語聴覚士、手術室看護師など多職種の協力体制が非常に重要となります。当院は日本脳神経外科学会・日本Awake surgery学会による覚醒下脳手術認定施設です。覚醒下脳手術に熟練した各スタッフが、患者さんの安全を第一に考えながら、覚醒下脳手術を行っております。覚醒下脳手術を希望される場合は、遠慮なくご相談いただければと思います。担当医が、覚醒下脳手術について、わかりやすくご説明いたします。

脊椎脊髄への手術は主に年齢の変化や腫瘍などによる神経の圧迫によって生じる、運動障害、感覚障害、膀胱直腸障害に対して施行されます。 運動障害であれば、上肢ではお箸をつかったり、ボタンのかけしめをしたり、字を書いたりすることができない、あるいはできにくくなってきます。下肢では歩いたり、階段を上り下りしたりすることができない、あるいはスムーズに動くことができないなどの症状になります。 感覚障害であれば、上肢、体幹(体)、下肢のしびれや痛み、場合によっては触るだけで痛い、熱さや冷たさがわからないなどの症状になります。 膀胱直腸障害であれば、尿漏れがひどくなったり、排便排尿感が分かりにくいといった症状になります。 脊椎の手術は、神経に触れることが多いため、手術操作が神経に悪影響を及ぼしていないかどうかを、術中神経モニタリングを行うことで、より安全に手術を施行することが可能となります。当院の脊椎脊髄手術ではほぼ全例術中神経モニタリングを併用して手術を行っています。