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当院集中治療部は循環器内科領域、心臓大血管呼吸器外科領域、そして一般集中治療領域で構成され、麻酔科からの出向医師は主に一般集中治療領域を管理しています。集中治療部はC病棟3階にあり、中央手術室に直結しています。麻酔科では、術後患者を中心に、一般病棟での急変・重症患者、新生児を含めた小児重症患者など非常に多種多様な疾患を管理しています。麻酔科では、2021年5月より集中治療における管理体制を一新しました。集中治療専門医を中心としたコアメンバーを任命し、治療方針の決定や運営方針をチームで考え、24時間365日シームレスな患者管理ができるような体制にしております。
ICUを新体制で始めるにあたり、“Sustainable Development of the ICU”を理念として掲げました。この理念を達成するために、Teamwork・Learning・Satisfactionの三つを大切にしたいと思っています。なかでもTeamworkは最も大切な要素です。I C Uでは、医師、看護師、臨床工学技士、薬剤師、理学療法士を含め、多職種が患者さんの治療に関わっています。これらのスタッフがバラバラに動いていたら患者さんが良くなることは決してありません。診療科同士、また多職種同士が、お互いに敬意を払い、各々の力を最大限に引き出せるような環境を築いていくことを最優先事項としています。多職種で議論をする場として、多職種カンファレンスやICU座談会を行っています。多職種カンファレンスでは、医師、看護師、臨床工学技士、理学療法士、薬剤師が集まり、重症患者さんの問題点を抽出し、多方面から治療方針を検討しています。また、ICU座談会では、多職種でICUのインシデントを共有したり全体の運営方針を検討したりしています。Learningについては、呼吸・循環・血液透析・小児など様々な分野で、コアメンバースタッフがベッドサイドで指導を行っています。また、部署内での症例の振り返りや外部講師を招いての講義など様々な取り組みを行っています。学術活動についても、大学病院という特徴を生かし学会活動や論文作成などの指導を多く行っています。さらに、セミナー受講や他施設への見学などについても積極的にサポートしています。Satisfactionについては、チーム医療で楽しく働ける環境を形成すること、臨床及び研究に関わる教育、そしてライフワークバランスを保つことで達成するように取り組んでいます。
当施設は、新型コロナ患者の重点医療機関になっており、重症患者の管理は集中治療部で麻酔科が中心になり、感染症内科、心臓血管外科、循環器内科の協力を得ながら行っています。2020年の4月に、集中治療部の一部をコロナ専用病床として改築工事を行いました。現在、コロナ専用病床が6床、一般ICU病床が10床となっています。2020年4月以降、2022年6月までに、153名の新型コロナの重症患者を受け入れ治療を行ってきました。人工呼吸管理を必要とする患者を中心に、ECMO管理や小児症例の管理も行っています。
一般ICU病床の受け入れ患者数は、新型コロナ肺炎の流行以前は、年間1400人くらいでしたが、新型コロナ肺炎蔓延以降は一般病床の一部をコロナ専用病床としたため、1000から1100人の患者受け入れとなっています。少しでも多くの患者さんの受け入れをできるように、第7波収束後にコロナの流行期と非流行期ともに対応できるようなコロナ専用病床に再改装しました。
新型コロナウィルス肺炎を契機に集中治療の重要性が国民に非常に強く認識されました。これは、2022年10月に厚生労働省が医師届出票(医師法施行規則第2号書式)において、「従事する診療科名等」の欄に「集中治療科」を加えたことからも窺い知る事ができます。
集中治療は、麻酔科の一部門としても非常に重要な役割を担っており、現在、若手の先生を中心に集中治療専門医の取得を目指して研修をしてもらっています。麻酔科のICUでは、大きなサージカルストレスを受けた術後患者、大きな合併症を抱えて手術を受ける患者、内科的な疾患の増悪で集中治療を必要とする患者、小児の重症患者など様々な年齢・疾患・病態の患者さんの治療を行っています。ICUでは、人工呼吸管理、E C M O管理、血液透析、血漿交換、カテコラミンの使用方法、抗生剤の選択などありとあらゆる全身管理を学ぶことができます。また、手技としては、気管挿管、気管切開、中心静脈・透析用カテーテル挿入、胸水・腹水穿刺、胸腔ドレーン挿入、ECMOの送脱血管挿入など多くのことを経験してもらえます。最近はPICS(集中治療後症候群)にも焦点を当て、I C U退室後の患者さんの状態を把握するために、病棟ラウンドも行うようにしています。
手術室での麻酔は、重症患者管理の根幹となる部分であることは間違いありありません。さらに、ICUを経験してもらうことで手術室麻酔だけでは学べない急性期管理を学ぶことができ、急性期管理能力の幅は確実に広くなります。初期研修の先生、奈良医大の麻酔科に興味を持ってくれている先生が、手術室麻酔とともにICUの研修をしてくれることをスタッフ一同心待ちにしています。また、麻酔科だけでなく、他の診療科に所属していて集中治療を学びたい、集中治療専門医を取得したいという先生がいらっしゃれば、是非仲間に加わっていただきたいと思います。診療する疾患は厳しい症例が多いですが、スタッフはとても仲が良く、良い雰囲気でチーム一丸となって治療を行っています。ICUの理念“Teamwork・Learning・Satisfaction”の三つを大切して、これからもより良い医療を提供していきたいと思います。これを継続的に発展させていくためには、もっと多くの仲間が必要です。重症患者さんの診療・治療に関わりたい皆様が奈良医大麻酔科の門をたたいてくれるのを楽しみに待っています。
集中治療部副部長・麻酔科副部長 惠川 淳二