研究

臨床研究

骨盤底手術(直腸癌手術、子宮癌手術)後の排尿障害を予防するための術中排尿機能モニタリングの開発

 直腸癌や子宮癌に対する外科治療では、局所再発を回避するため行う拡大郭清により排尿機能に関与する神経が損傷されることがあります。本研究では、術後排尿機能障害の予防を目的に術中の球海綿体反射や尿道括約筋から記録される運動誘発電位モニタリングが妥当であるかを検討しています。 (研究担当者:林浩伸、大井彩子)

運動誘発電位モニタリングに対応した弾性ストッキング(商品名:モニフィット)の有効性の調査

 全身麻酔下手術では、下肢静脈血栓症を予防するための弾性ストッキングを履きます。近年、我々は術中運動誘発電位モニタリングのための弾性ストッキングを開発し、特許を取得しました。これを使用することで患者さんの下肢の皮膚障害を回避でき、運動誘発電位モニタリングも正確できているかを調査しています。(研究担当:林浩伸、高谷恒範、川口昌彦)

術中神経モニタリングのデータバンクを用いた後向き研究

 術中神経モニタリングで得られたデータを詳細に管理する部門(Neuro-lab)では、患者の術前と術後の神経機能状態、術中神経モニタリングで得られた波形情報、麻酔管理情報を蓄積しています。このデータバンクを後ろ向きに解析することでよりよい術中神経モニタリングを行い患者の神経機能を保護することを目指しています。(研究担当:林浩伸)

レーザースペックル法による術中眼血流測定による脳血流評価の検討

 人工心肺を用いる心臓血管手術などの脳合併症のリスクが高い手術では、脳血流の維持が重要になります。レーザースペックル法による眼血流測定を行うことで脳灌流を評価し、脳合併症を予防できるかを検討しています。 (研究担当者:林浩伸、川西秀明)

体幹部神経ブロックが周術期に与える影響について

 2019年に発表されたthoracoabdominal nerves block through perichondrial approach(M-TAPA:図)は腹壁の広い範囲で鎮痛効果を示すと報告され、本邦でも盛んに行われている神経ブロックですが、その効果や作用機序、安全性について臨床研究を行なっています。また、同様に新規性の高いexternal oblique intercostal block(EOIB)に関しても同様に臨床研究を行うことで、患者さんに適切な鎮痛プランを提示できるよう研究を進めています。(研究担当:鈴鹿隆教・田中暢洋)
 また、既存の腰方形筋ブロックも一過性に大腿四頭筋筋力を低下させるという報告はありますが、その頻度や低下の程度はわかっていません。これらを調べることで神経ブロックの安全性に寄与すべく研究しております。(研究担当:角谷勇磨・田中暢洋)

侵害受容モニターを用いた周術期管理とその妥当性

 麻酔科医は患者さんから得られた生体情報(心拍数、血圧など)に手術侵襲の程度も加えて患者さん自身がどのくらいストレス(侵襲)を感じているか判断しながら麻酔を行なっています。
 麻酔科医の知識、技量や経験が左右する部分とも言うことができます。
 鎮静、筋弛緩に関しては客観的モニターがある一方で、痛み(侵害受容)のモニターに関しては発展途上でした。海外でその有効性が報告され始めた痛みを数値化して示すモニターの妥当性を本邦でも検討していきます。
(研究担当:角谷勇磨・田中暢洋)

Post Intensive Care Syndromeの発生率と関連因子についての研究

 集中治療後に発生する身体的障害、精神障害、認知機能障害の発生率を明らかにするとともにICU入室前の患者背景やICU入室中の発生イベントとの関連を調査中である。
(研究担当:内藤祐介)

多職種チーム医療が手術室・麻酔科医の医療安全と労働生産性に与える影響についての調査

 臨床工学技士麻酔アシスタントや周麻酔期看護師、特定看護師など多職種によるチーム医療が手術室の安全性を高めることを実証するとともに、麻酔科医の効率的な働き方を促進し2024年に向けた安全な労働時間削減について調査している。(厚労科研「新しいチーム医療等における医療・介護従事者の適切な役割分担についての研究」研究分担者)(研究担当:内藤祐介)

全身麻酔下のVEPモニタリングにおける振幅低下時の最適警告基準の検討

 視覚伝導路付近の脳腫瘍や脳動脈瘤の手術は、術後に視機能障害発生のリスクがあります。この術後視機能障害を未然に回避するために、術中に視機能をリアルタイムに評価する視覚誘発電位(visual evoked potential:VEP)モニタリングが近年普及しています。しかし、術中のVEP振幅が術前と比較して何%低下した場合に術後視機能障害が発生するのかについて調査した報告はなく、各施設で様々な警告基準が用いられているのが現状です。
 本研究では、術後視機能障害を予防するためのVEP振幅低下の最適な警告基準を設定するために、当施設でVEPモニタリングを併用した脳腫瘍摘出術や脳動脈瘤クリッピング術の患者におけるVEP振幅低下の程度と術後視機能障害発生について検討しています。 
(研究担当者 : 植村景子、林浩伸)

肺葉切除術を受ける患者でのプレハビリテーションの効果の検討

 手術決定から実際に手術が施行されるまでの期間に運動療法と栄養療法を組み合わせた身体能力の向上(プレハビリテーション)の実施により術後の運動機能や生活の質が改善するかを評価する無作為化比較試験を実施している。 (研究担当者:位田みつる、川口昌彦)

手術後の患者回復度に関する研究

 当施設で作成した術後回復度の標準的な指標である日本語版QoR-15( https://www.naramed-u.ac.jp/~anes/research/evaluationtool.html )を用いて手術前の状態が回復過程に及ぼす影響や、回復過程と術後の生活機能との関係を検討している。
(研究担当:位田みつる)

周術期におけるフレイル(特に握力)と、術後集中治療室でのせん妄との関係性についての研究

@心臓血管外科手術をうけられた患者さんに対して、術前に測定した握力値と、術後の集中治療室でのせん妄の発症に関係性があるかを後ろ向き研究にて調査しています。

A上記研究の研究結果をふまえ、心臓血管外科術前に握力トレーニングを行った患者さんと、そうでない患者さんを比べて、術後せん妄発症に差があるかを、前向き研究にて調査しています。
(研究担当者:甲谷太一)

経カテーテル的大動脈弁置換術(TAVI)をうけられる患者さんに対して、全身麻酔薬「アネレム」を使用した際の血圧変化の研究

 2020年に新規採用となった全身麻酔薬「アネレム」は、麻酔中の血圧変化が少ないとされています。弁膜症の影響で全身麻酔中の血圧が不安定になる方が多い従来の全身麻酔薬と比較して、「アネレム」の全身麻酔中の血圧変化を中心に、前向き研究にて調査しています。


;(研究担当:甲谷太一)

小児の術中運動誘発電位(motor evoked potential: MEP)モニタリングに関する研究

 一般的に成人と比較し導出が困難とされる小児のMEPモニタリングに関する研究(モニタリング条件、麻酔方法など)を行なっています(研究番号2563)。また、特殊な尿道カテーテルを用いて小児の術後排尿機能障害を予防するためのMEPモニタリングに関する研究も行っております(申請中:書類審査は完了)。 (研究担当者:小川裕貴、林浩伸)

Effective Medical Creation(EMC)に基づいた改装が患者、家族、医療従事者に与える影響に関する研究

 EMCは、Art of Medicineをテーマとし、ICUにおいて、五感(視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚)と想感(思いやりと知恵)を連動して働きかけることで、患者、家族、医療従事者の誰もが快適と思える空間作りを目指しています。集中治療室(ICU)においてEMCに基づいた改装が患者、家族、医療従事者に与える影響を研究しています(研究番号2480)。


;(研究担当:小川裕貴、川口昌彦)

医療ビッグデータを活用した周術期管理に関連する研究

 奈良県立医科大学公衆衛生学講座や東京大学とも連携し、Diagnosis Procedure Combination(DPC)データーベースやJMDCデータベースなどの医療ビッグデータを活用した複数の周術期管理に関連する研究を行っています。
(研究担当者:小川裕貴)

特定臨床研究について

臨床研究法において、臨床研究とは「医薬品等を人に対して用いることにより、当該医薬品等の有効性または安全性を明らかにする研究」とされています。
その中でも、未承認・適用外の医薬品等を用いてより良い使用方法や治療方法を探索する臨床研究を特定臨床研究と呼びます。
奈良医大麻酔科においても、積極的に特定臨床研究を展開し、研究を通じて社会への貢献を目指します。